毛糸の行方

   「こんにちは。ぽぽさんですか?」

その電話は突然かかってきた。

iPhoneの画面には、知らない個人番号の表示。

おそるおそる出てみると、父の知り合いの方だと名乗られたので、ひと安心して話を進める。

要件を伺ってみたところ、その方がいつか編むつもりで買いためた毛糸があり、その毛糸をもらってくれないかというお話だった。

もちろん断る手はない。

それどころかむしろバンザイである。

落ち合う場所と時刻を約束して、電話を切った。

 

   それから数時間後、その方は打ち合わせた場所に現れた。

ものすごい量の毛糸を、車に詰め込んで。

お電話をいただいた時点で何の根拠もなく「段ボール一箱くらいかなぁ」なんて考えていた自分が甘かったことに、遅まきながら気づく。

唖然とする暇もなく、とりあえず袋たちを家の中へと運ぶ作業に移った。

その量たるや、大きなポリ袋に換算して5袋ぶんにも及ぶ。

色とりどりの毛糸たちには編みかけた途中のものもあり、そのラベルの古さにも、その方が編むのを楽しみに長くに渡り毛糸を買いためた様子が見て取れる。

私も同じだ。

あれを編もう、これを編もうと少しずつ買い足しているうちに、どんどん毛糸は増えていくのだ。

その方の想いも一緒に受け取って、気持ちだけだが次回会った時に気に入ったニットをひとつ、御礼にお渡しする約束を交わしてその日はお別れした。

 

   その後この5袋ぶんの毛糸の区分けには数日を要し、今日ようやくこの毛糸たちの整理に一区切りがついた。

とは言っても、 まだ種類別に分けいちおう棚に詰め込んだ段階であり、各毛糸の正確な量までは把握できていない。

今は季節的に春夏物を編む時期なので、本格的にそれらの毛糸と向き合うのはもう少し、先になるだろう。

とはいえ本当にありがたいのは事実。

昨今、毛糸は値上げが続いているのだ。

 

   なんでも中国で火鍋という料理がブームとなり、オーストラリアにいる毛糸を採る用の羊達が食用に回されているせいだとも聞く。

なんてグローバルなお話。

日本という小さな国の一個人にもそのしわ寄せが来ているのだから、世界中のニッターさんたちがどんな思いでいるのか、推察にかたくない。

一個人が思うことには、早くその火鍋ブームとやらが終わってくれることを願うのみである。

 

 

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